2022.01.05  【責任編集】ラーニング・ツリーアジャイルのスケーリング

アジャイルの世界に身を置く組織、アジャイルの導入を検討している組織では「スケーリング(Scaling)」を耳にする機会が多くなってはいないでしょうか?

現在のアジャイルにおいてスケーリングは最も熱い話題であり、同時に必要性が増している取り組みでもあります。この記事では、そんなアジャイルのスケーリングについて概要から解説していきます。スケーリングとは何か?なぜ必要とされているのか?スケーリングに関する疑問をここで解消していきましょう。

スケーリングとは?

「スケーリング」と聞くと、開発規模のスケールアップ(拡大)を想像しがちです。しかしながら、アジャイルにおけるスケーリングとは規模の大きい小さいに関わらないのが特徴です。スケーリングの本質は単なる規模拡大ではなく「規模拡大に伴って生じる、各種調整事項を考慮しながら組織ごとに適切なスケールアップを実施すること」となります。

つまり、スケーリングの意味は企業によって若干異なり、次のような取り組みはいずれもアジャイルのスケーリングだと言えます。

  • 複数チームが巨大なプロダクトバックログに取り組む
  • 市場シェアを獲得しているリーン新興企業の成長プロセス
  • アジャイルを好む大規模組織の変革

アジャイルのスケーリングを理解する上で大切なことは「スケーリングの形は1つではない」という事実を念頭に置くことです。スケーリングに対して固定概念を持ってしまうと、目の前の問題を解決する方法論を柔軟に考えることができず、スケーリングの成功軌道から逸れていくことになります。

スケーリングさせる際に注意するべき事項

アジャイルをスケーリングさせるにあたり、注意すべき事項が3つあります。大まかに3つの注意事項について解説しておきます。

独自の開発目線が必要(他社のモデルは通用しない)

アジャイルやスクラム、あるいはDevOpsなどの開発スタイルは方法論が確立されたものが多く、作り込まれたプロセスを開発チームに当てはめることで機能していました。一方、アジャイルのスケーリングではそうした「他社モデルの流用」のようなやり方では、ほぼ確実に失敗します。

アジャイルの規模を拡大し、組織構造や事業構造、作業方針などビジネスの根幹部分での変革が必要であり、全く同じ根幹を成している企業は2つとして存在しないからです。アジャイルのスケーリングに近道はありません。故に、独自の開発目線が必要であり、それこそがスケーリングを成功へと導く唯一の道です。

進め方そのものはコピー出来ない

アジャイルのスケーリングに取り組む企業の中には、「アジャイルの進め方そのものを拡大すれば良い」と考えるケースがあります。しかし前述のように、アジャイルのスケーリングとは組織構造や事業構造などの大規模な改革です。アジャイルの進め方そのものをコピーするようなやり方では成功できません。

例えばプロダクトオーナー、開発チーム、スクラムマスターで構成されるスクラムで考えた場合、複数のスクラムチームが1つのプロダクト開発へ取り組もうとすると途端にプロセスが崩れます。チーム間の調整が増え、それに伴い調整役が増員され、スクラムチームはビジネスの向こう側にいる顧客を意識するのではなく、次第にローカルでの最適化を求めるようになります。

これは明らかにスクラム本来の姿ではありません。しかし、アジャイルをスケールさせるにあたり開発の進め方そのものをコピーしようとすると、往々にして起こり得ることなのです。

そもそもスケーリングが必要かをチェック

根本的な問題です。アジャイルのスケーリングとは、変化の激しい時代において環境変化に対する事業構造の素早い適応を意味する「ビジネスアジリティ」の向上が目的です。これを考慮すると、そもそもスケーリングが必要ないケースも珍しくありません。

企業や開発チームはその事実に早期段階で気づくべきですが、アジャイルのスケーリングが世界的なトレンドになっている今、スケーリングの必要性を検討するのは難しい話でもあります。冷静な判断力を持ったリーダーが存在するか、外部機関からのアドバイスを煽らなければ本当の必要性に気づけない可能性があるでしょう。

アジャイルの代表的なスケーリング方法

アジャイルにおける代表的なスケーリング方法が「SAFe(Scaled Agile Framework)」です。社内でアジャイルのスケーリングを検討しているのであれば、真っ先に導入を考えるべきがSAFeとなります。

SAFeは開発チームという小さな枠組みを超えて、企業または事業部が一丸となって強力なプロダクトやサービスを企画・開発することを支援するフレームワークです。そんなSAFeの根底には「リーン開発」があることを忘れてはいけません。

リーン開発は2011年頃から提唱され始めた開発手法です。「Lean(痩せた)」、すなわち余分な作業を可能な限り削ぎ落とした形で開発を進め、市場での成否を早期に見極め軌道修正していくものとなります。リーン開発をベースにしたSAFeには次のような全体像があります。

出典:SAFe 5 for Lean Enterprises SCALED AGILE

一目見ただけではSAFeの全体像を理解するのは難しいかもしれません。しかし、SAFeのようなアジャイルスケーリングのフレームワークはビジネスアジリティを得るために欠かせない存在となっています。

こうしたアジャイルスケーリングのフレームワークはSAFeだけではありません。次のようなフレームワークも存在し、それぞれにメリット・デメリットが存在するため、各フレームワークの特徴を見極めながら導入すべき型を決めることがポイントとなります。

  • Scrum of Scrums
  • Disciplined Agile Delivery (DAD)
  • Spotify Model
  • LeSS
  • Enterprise Scrum
  • Lean Management
  • APM
  • Nexus
  • RAGE

ただし現状として、SAFeがアジャイルスケーリングの世界標準と言えるでしょう。

スケーリングの効能と副作用

アジャイルのスケーリングに成功した企業は、どのような効能を享受するのか?以下はその代表的なものです。

  • プロダクトやサービスの透明性が向上し、従来よりも優れた戦略の管理・実行が可能になる
  • チーム配置と予算編成を戦略的に行えるようになり目標達成に向けて実行力が向上する
  • 組織全体がビジネスの問題に近い存在となり、適切な情報を適切なタイミングで得て迅速かつ正確な意思決定が可能になる
  • 環境変化に対するビジネスアジリティを高め、資金や人員などの経営資源を有効活用できる

上記の効能を享受する一方で、「アジャイル本来の良さを失う」という副作用が生まれやすいことを理解しなければいけません。アジャイルのスケーリングは得てして「開発スタイルそのものの規模拡大」と捉えられることが多く、進め方そのものをコピーして拡大するようなやり方では、結局のところウォーターフォール開発のような柔軟性に乏しい開発スタイルを築く可能性があるのです。

従って、アジャイルスケーリングでは「スケーリングの形は1つではない」という事実を念頭に置くことが、やはり重要となります。

まとめ

アジャイルのスケーリングでは、規模拡大プロセスの正確なチェックと都度の見極めが重要です。スケーリング手法としては前述したSAFeが主流であり、大規模案件ではSAFeの適用がスケーリングの肝になるでしょう。しかしながら、まずはアジャイルスケーリングのポイントとなる項目を整理し、スケーリングに対する深い理解が欠かせません。

アジャイルのスケーリングは、ダイナミックな取り組みですが非常にデリケートな側面も持ち合わせています。まずは、自組織のビジネスがスケーリングを必要としているか否かの評価から始めてみましょう。

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